1 大都市居住の意味
2 福祉先進国・英国
3 英国の高齢者住宅
4 英国新高齢者住宅
5 景観に配慮する街づくり
景観に配慮する街づくり                              萩原信行 
イギリスに一年半住んでみて一番楽しめたことの一つは景観の美しさです。日本
と比べてなぜ街の美しさが違うのでしょう。理由はいくつかあります。国土の三分
の二が牧草地である国と三分の二が山林である国では、敷地の余裕に差があるの
は当然です。緑が良く育つ環境はガーデニングの文化を育てました。住宅地につい
ては看板の法規制があり、街にはわずらわしいものがほとんどありません。都市計
画の歴史が古く、多くの街で電線が地下に埋設されています。これだけの環境が整
っていればどんな建物も見ごたえがするでしょう。
また役所のデザインに関する規制も厳しく、色や形についての細かい指導があり
ます。ここで初めて設計した建物の確認申請で「外壁はレンガ積み」とだけ書いた
ところ、もっと詳しく表現するよう要求されました。すべての街路ごとに、外壁の
材料は色と材質まで決められているのです。形については、レンガの積み方まで指
導されました。新しいことでもやり放題の日本から見ると、ちょっとやりすぎじゃ
ないかと思うほどです。申請に時間もかかり煩わしいのですが、それに対して市民
も建築家も理解を示し、環境美化のためにルールを守ろうとしています。その結果
美しい環境が守られているのでしょう。
建物のインテリアについても、公共性のある建物については同じような傾向が見
られます。日本では建物が完成すると竣工祝いとして贈答の絵や置物が届きます。
また市民からの寄付と称して大きな絵がたくさん持ち込まれることがあります。頂
いたものはすべて展示するのが礼儀だといわれ、苦労してデザインしたインテリア
が台なしになったこともあります。何の脈絡もなく並べられた絵の方も作品として
生きません。更に残念なことにはせっかく掲示板を準備しても張り紙をあちこち無
造作に張られてしまうことで、がっかりすることがあります。欧米ではオーナーと
いえども絵や彫刻さえ勝手に置くことはできません。アートコンサルタントの目を
通さなければならないからです。建物の景観を大切にするのと同じ意識が公共施設
のインテリアにも働いているのでしょう。
日本の建築家は施主に逆らえないところがあり、それに甘んじてしまったことも
あります。たとえ自分の所有物であろうと、公共の目に触れるものに配慮する意識
が、施主の方にも欠けていたように思います。
ところが、このたび日本に帰って驚いたのは、わが国初の景観に関する総合的な
法律「景観法」が成立していたことです。海外旅行も盛んになり、多くの人が外国
の美しい都市づくりに触れる機会が多くなった今、日本人の意識も変わって来てい
るのでしょう。古い都市には秩序があったとよく言われます。それは長い歴史のあ
いだに造られていくものかも知れません。江戸時代わが国にも同じ美意識で統一さ
れた街なみがありました。
近代化のスピードの前で、ないがしろにされてしまっていた大切なことを、今こ
そ腰をすえて再建する時なのでしょう。各自治体で条例により対応していくようで      
すが、すぐに改善されるとは思いません。都市計画道路の未整備など難問は山積し
ていますが、とりあえず一歩前進です。微力ながら私も景観の美化に貢献したいと
考えています。