その種類も数も多いイギリスの高齢者住宅は、自分に合った老後の住環境を選べ |
る多くの選択肢を持っています。まず、最近は在宅支援サービスがかなり充実して |
きたため、自宅に住める可能性が増えてきています。普通の家でも一般的に日本よ |
りゆったりした浴室やトイレを持っているので、介護の負担を少なくしていること |
もそれを可能としているのでしょう。 |
イギリスに一番多い伝統的な高齢者住宅はシェルタード・ハウジングと呼ばれる |
もので、長い歴史の中で進化しつづけています。ある程度護られた環境で家を所有、 |
または賃借して、自立した生活を可能にしています。10年程前マンチェスターに行 |
ったとき知人が入居していたものは、健康なお年寄りが対象のタイプでした。数軒 |
のワンルーム住戸が中庭を囲んで配置され、廊下はその外側を取り巻くように巡っ |
ていました。キッチンは廊下側にあり、高窓がついていてそこから漏れる光や音で |
生活の気配を通りがかりに感じることができるのです。中庭側もカーテン越しに異 |
常が無いか確かめ合うことができます。高齢者が集まって生活する場合は、お互い |
見守り合える構造が大切であるのだと気づかせてくれました。 |
部屋は15畳ぐらいのワンルームで、壁面には家具や飾り物がたくさん置けるよ |
うプレーンなものとなっていました。彼は大型船の乗務員でしたから、世界中から |
集めた船の模型が壁面いっぱいに飾られていて、思い出の一杯詰まったアイデンテ |
ィティーある空間を作っていました。生き生きと昔話をする輝いた彼の目を、今も |
忘れることができません。共用施設や管理人もいないもっとも簡単なタイプでした |
が、通報システムもついていて無料で住んでいるとは思えない立派なものでした。 |
生活費は時々配達してくれるミールズオンウイールズとよばれる宅食サービスと、 |
身の回りの衣料代程度ですから何の心配も要りません。最近亡くなったそうですが、 |
このような充実した生活のできる環境のおかげでしょうか最後までボケなかったそ |
うです。 |
次に、もう少し虚弱な高齢者用で共用施設や管理人住居が付いたシェルタード・ |
ハウジングがあります。そこでは介護ニーズが高まればケア・ホームへ移住しなけ |
ればならないので最後まで住める終の棲家とは言えません。 |
ケア・ホームというのは、それまでレジデンシャル・ホームと呼ばれたものとナ |
ーシング・ホームをひとまとめにして、同じ法的国家基準の下に2002年に統一 |
されたものです。その二つは看護婦がいるかどうかの違いがありますが、両方とも |
認知症など介護依存の高い高齢者向きのものです。ロザリンの母親の姉、つまり伯 |
母さんが認知症でこのタイプに入っているため、時々見舞いに行く機会がありまし |
た。建物は昔の領主の館を利用したもので、終の棲家として尊厳を守るに十分な風 |
格を備えたものでした。伯母さんは若い時からの愛煙家でしたから、ここでは家族 |
に反対されることもなく、庭先で花に囲まれてゆったりとタバコが吸えるのがお気 |
に入りのようでした。もっともあまり自由すぎるということで家族は別のホームへ |
の引越しを考えていました。 |
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